HOTEI.COM

PARADOX COMMENT FROM LYRICISTS

アルバム『PARADOX』について僕が語るべき4つの事柄

布袋寅泰から旅に誘われ、27年が過ぎた。

人はよく人生を旅に擬(なぞら)えるが、彼の盟友となり“Rock’n Rollの曠野”を彷徨した僕にとって、“歌詞という足跡”は退嬰的な比喩ではなく、人生そのものである。

「背骨が愛と双子のギターを抱いて」いた20代の布袋とは「石の背広を着込んだ紳士を転がした」り、「アスファルトとKISS」したり、ずいぶんとヤンチャな日々を過ごした。 スリルな恋に「眩しさを永遠に焼き付けて瞳を壊そう」としたり、接吻というPOISONのせいで「胸の傷が紅い薔薇に見えた」り、バンビーナに「退屈させてちゃんと浮気された」のは、30代の話。

北斗の七つ星を道標に、果てしなき夢を抱き、嵐が丘を越えLondonに渡り、気がつくと彼は50代、僕は60代になっていた。二人のHEROだったデヴィッドも、もうこの世にいない。
旅はいつの間にか終わったように思えた。鬱屈した時代の波が、いつしか僕を日常に閉じ込めていた。

だが、布袋寅泰は永遠の旅人だ。僕をまた新たな曠野へと駆り立てる。

Blue Sky

興奮したメールとともに送られてきたデモの1曲目。それを聴いた瞬間、僕の胸を一陣の疾風が吹き抜けた。嗅いだことのない埃や泥や血の匂いがした。空気の中にいろんなモノが浮遊している。 想像の粒子よりも大きい透明なリアルの固まりだ。未来より過去が増えてしまった失望と一緒に、キラキラ、たぶん今生まれた希望のようなモノも混在している。 それは、静かで抽象的で、それでいて今まで触れたことがないほど熱いRock’n Rollだった。

ある時代、飽和した日常をブチ壊すことがひとつの使命だったRock。だが、美しいモノが次々に壊れ、壊されていく21世紀の今、Rockが何を歌うべきか? 布袋の新たな挑戦に僕が何を託せるか?それはたぶん作詞家人生、最後の課題だと感じた。答えを求めて書き進めば詩は底無しのMazeに囚われ、いつものことだが、迷い苦しむために生きているような錯覚に陥る。 いや、僕だけではないのだろう…人類はアヤマチを犯すことで、結果、未来を造ってきたのだから。そうか、感情を挟まず、回想を体言止めで羅列してみよう。水鏡のように今が映るかも知れない…。

水鏡を造る案で布袋とも進むべき道を確認できた。だがやはり、斬新な答えを探しもがけば、邪念が靄のように行方を阻む。遠く光は見えているのに、出口はない。 希望は失っていないのに、答えはない。ふと、人類は白い闇の中にいるのだと、思った。

諦念に跪(ひざまず)けば靄は消える。なのに、どうしようもない憎しみが世界を覆い尽くし、僕らには知識も情報も愛もあるのに、闇が明るすぎて自分の指先が見えない。 あなたに触れたいのに自分の指が見えないのだ。零れそうな青空の下で、世界は静かに狂っている。

Pandemoniac Frustration

70年代に活躍したシンガーソングライター、ハリー・二ルソンの作品に『パンディモニアム・シャドゥ・ショー』というタイトルのアルバムがあって、“PANDEMONIAM”はずっと気になる言葉だった。

その「大混乱」「悪魔の棲む伏魔殿」といった意味の英単語が、これほど今の世界情勢を表すのに的確なものはないと思い、この歌詞が生まれた。

“神がニュースショーに生出演したら、一体何を語ってくれるのか?”

このとんでもない状況設定は、デモに入っていたコーラス最後の「Oh,my God!」から派生している。ネイティヴの人達は“神”を意識せずにこの言葉を発していると思うが、もしも神が想像以上にパンクな奴で 「テメエら、もう知らねぇよ!」「いい加減にしろ!」とカメラに中指を立てたら、Wのミーニングで「Oh,my God!」だろう。

そしてヨーロッパやイスラム諸国の問題を“ウォッチャー”として傍観していた日本の僕らも、今はアジア圏の大いなる危機に晒されている。 すでに“PANDEMONIAM”に巻き込まれた当事者なのだ、とんでもないことに。

Paradox

まず『Blue Sky』が完成した所から、アルバムの様々な方向性を模索した。『Blue Sky』の中で使った“矛盾”“PARADOX”という言葉に布袋は反応し、アルバムのコンセプトへとイメージを昇華させ、 この曲をタイトル曲にしようということになった。

しばらくして送られてきたジャケ写には、地球と羽ペンを携えた凛々しい布袋の姿があった。羽ペンは「言葉が剣より強い」ことを象徴させたかったという。 プレッシャーは感じたが、それ以上に、不屈の音楽戦士の武器となる歌詞を書けることの歓びに胸が躍った。

さて、この世界が大いなる矛盾で出来ていることは、もう隠しようのない事実だろう。だがそう言い切ってしまうと、乱れる秩序や崩壊する夢が怖ろしくて大人達はそれを内密にしてきた。 光が眩しいほど黒い影と闇が生まれるように、物事は常に逆説的な要素を孕んでいるのだ。

だが嘆くことはない。詩的にファンタジックに物事を見れば、“PARADOX”が世界を愉快にしているとも言える。有名な「貼り紙禁止の貼り紙」や「砂山のパラドクス」などギャップや理屈を逆手に取れば、 言葉の魔法は意外に楽しい。ネガティブの沼に溺れてもポジティブの蔓は必ず手に触れる。宝石店では今日も無数の傷がダイヤモンドを輝かせている。飛べない翼に落胆しながらも、 人は一歩一歩今日へと歩き続けて来たのだ。

Strawberry Fieldsの太陽

頭の“Strawberry Fieldsの太陽”というフレーズは、その瞬間を待っていたかのように天から降りて来た。サウンドとメロディーが先になければ浮かばなかっただろう。“太陽”のイントネーションに秘密がある。

頭は気持ち良く出来たものの、さて“太陽”が何のアイコンであるか明確にしていかなければならない。

まずは“年下の恋人”にしてみた。…だが今更、布袋が歌う世界ではなかった。次に、80年代に同棲していて今は天国に逝ってしまった“想い出の人”にしてみた。…うーん、何か違う。
今、布袋と僕がもう一度光浴びたいと願う“太陽”とは、一体何なのだ?僕達のアイドル?僕達のHERO?…うむ!

2016年は悲しい年だった。最愛のデヴィッドが天国へ旅立ったからだ。27年前、布袋から旅に誘われた時の、見えない扉を開ける鍵がデヴィッド・ボウイだった。飲んで、どのくらい彼の話を繰り返したことだろう。 やがて布袋は最大の夢を叶えて1996年にはデヴィッドとの共演も果たした。

デヴィッドだけでなく、僕にとってプログレの歌といえばこの人だったグレッグ・レイクも亡くなった。初期キング・クリムゾン、その後、エマーソン・レイク&パーマーとバンドは変われども彼のヴォーカルとピックで 弾くベース、そして彼の相棒でもあった作詞家のピート・シンフィールドの詩世界とも相まって、めくるめく幻想の世界へ僕を誘(いざな)ってくれた。

彼の仲間のキース・エマーソンも、そしてあのプリンスも、グレン・フライもレオン・ラッセルもモーリス・ホワイトも…ああ、今は僕の血となってハートで脈動し続ける音楽と生きるスタイルを教えてくれたHERO達に もう一度逢いたい。布袋からはチャック・ベリーとジョン・レノンの名前が挙がり、よし、畏敬の念を抱く先輩達に僕らなりの感謝を捧げる歌にしよう!と、この曲が完成した。

歌詞の中で、ゴロワーズを吸っていたのは勿論、史上最強にカッコイイ兄貴だったムッシュかまやつ氏である。

NEW ALBUM『Paradox』
発売日:2017年10月25日(水)

収録曲
1. Amplifire
2. Pandemoniac Frustration
3. Dreamers Are Lonely
4. ヒトコト
5. Paradox
6. Blue Sky
7. Maze
8. Parade
9. London Bridge
10. Strawberry Fieldsの太陽
11. Aquarium
12. Amplifire (Reprise)