HOTEI.COM

PARADOX OFFICIAL INTERVIEW

取材・文:平山雄一

昨年の35thイヤーをライブにリリースに明け暮れて、アグレッシブに駆け抜けた布袋寅泰が、ニューアルバム『Paradox』をリリースする。日本語で歌うオリジナル・アルバムとしては、インターナショナル・アルバム『STRANGERS』をはさんで、『COME RAIN COME SHINE』以来、4年ぶりとなる。

布袋自身による作詞はもちろん、盟友の森雪之丞、小渕健太郎(コブクロ)、いしわたり淳治、高橋久美子(ex.チャットモンチー)といった個性的な作詞家たちを起用して、世界で活躍する布袋ならではの視点で2017年の“Paradox=矛盾”を描き出す。ロンドンのユーモア感覚や、逝ってしまったロック・ヒーローたちへのリスペクトをちりばめた世界観が、深い感動を呼ぶ。

サウンド面では日本と海外の傑出したミュージシャンやエンジニアたちが結集して、これまで以上に鋭く優しい“布袋ワールド”の構築に力を貸している。何より素晴らしいのは、こうした叡智を漏れなく音楽に落し込んだ布袋のプロデュースワークだ。

快心の傑作『Paradox』について、布袋寅泰に聞いてみた。

▼今回のアルバム『Paradox』は、久しぶりのというか、初めての百点満点です。

――珍しいですね、布袋さんがそんなことを言うのは(笑)。

▼うん! 歌詞も曲もサウンドも、ボーカルもギターも、何から何まで好きです。本気でそう言いきれる作品ができて良かった。35周年を経た古いファンの皆さんも、また新しく僕の音楽に入ってくる人たちも、みなさんに楽しんでもらえる。僕も言いたいことをしっかり言えたアルバムになりました。

――すべてに満足のいくアルバムになったんですね。

▼なぜこの作品がそうなったか。今まであまり過去の自分を振り返るようなことはせず、ひたすら突っ走ってきたので、35周年のアニバーサリーは過去の作品や、今のオーディエンスと向き合うとてもいいチャンスとなったし、いろいろなチャレンジをできたのは大きかったですね。渡英してからのこの5年間での経験、海外でのリリースやライブ活動を通じて掴んだ実感、喜びや苦しみや悔しさも反映されたと思います。
また昨年はデヴィッド・ボウイが亡くなったことも大きかった。彼のラストアルバム『ブラックスター』はものすごく強烈で、ホントに重く深く、そして果てしなく美しかった。あのアルバムを聴いたときに思ったのは、シンプルに言えば「自分のやりたいことをやらなければ後悔するぞ」ということだった。自分が今を生きたアーティストとしての証しを残したい。「これがもし自分にとって最後の作品になるとしたら」なんてことは、今まで考えてこなかったから。

――ああ、やっぱりそれが大きかったんですね。

▼はい。デヴィッド・ボウイを失った喪失感というよりも、ものを創る人間としてのあり方っていうか。僕も50代になって、背伸びして大人ぶる必要もないし、かといって若ぶる必要もない。今はサウンドや音楽シーンに、時代のモードがあるわけでもない。イギリスでの様々なコラボレーションを重ねながら、このアルバムのクリエーションをスタートしたのもあって、装飾的な音作りをなるべく排除して、シンプルで太くてピュアなものを作りたいと考えるように変わってきましたね。そんなタイミングだからこそ出来たアルバムだと思う。また日本語で歌うのは、『COME RAIN COME SHINE』以来だから、ほぼ4年ぶりなんですよね。途中にワールドリリースの作品があって、そこで一度歌から離れてギターとサウンド作りに専念しましたから、今回は久しぶりに日本語と向き合うことになった。いや、ひょっとするとここまでシリアスに日本語と向き合ったのは初めてかもしれない。

――アルバム『Paradox』の歌詞を聴いていて、ロンドンにいる布袋さんと、世界で起こっている社会現象を共有している感じがすごくしました。

▼やっぱりロンドンにいて、目の前で生々しく起こってる現実を無視することはできなかったですね。かといって、「世界はこんなに歪んでいるんだ」という問題提起するだけでは無責任な気がする。自分が今暮らしているロンドンという街の日常に、突然人々の波に車が突っ込むテロが起こったり、EU離脱のような生々しい現実がある。目の前で起こっていることを、自分の視点で、言葉とサウンドで、ルポルタージュ、またはドキュメントとしてしっかりと伝えたい、伝えるべきだ、というある種の使命感みたいなものが作品作りの原動力となりました。こういう時代に中途半端なファンタジーを書くつもりにはなれませんでした。

――どこまでのドキュメントにするのかというバランスが難しかった?

▼アルバムの制作過程でデモテープが少しずつ完成しはじめた段階で、「我々の生きている世界が抱えている様々な問題」を反映した作品にしたいということは作詞家の森雪之丞さんにも伝えていたので、今回は森さんがアルバムの基本コンセプトとなるテーマを重厚に力強くしっかり表現してくれましたね。

――コンセプチュアルなところですね。

▼だからこそ森さん以外の作詞家の方々には、もう少し視野を広げた形でお願いできた。森さんの存在は、やっぱり大きいなあ。いちばん最初に「Blue Sky」の詞が届いたんです。彼の描いてくれた青空は果てしなく広く、深く、悲しく、美しく、儚く、力強い、本当に素晴らしい詞だと感動しました。その詞の中に「探せば失う記憶のParadox」という一節を見た瞬間、アルバムのタイトルは『Paradox』にしようと決めました。「矛盾」、「逆説」、まさに現代を表わす深いテーマだと思ったんです。
「Blue Sky」は、生々しいテロの翌朝、空を見上げると抜けるような青空が広がっていた…悲しみと未来の狭間にある青空が、あまりにもシュールで象徴的な情景だったので、その時の気持ちを森さんに託したんですよね。

――そういう景色を見て思ったことを、歌にしたいんだっていう気持ちを、森さんが受け止めてくれたんですね。

▼今回、森さんは僕の中のイメージを、丁寧に時間をかけて的確な言葉に変換してくれた。